
ベトナム進出を目指す日本企業にとって、ビジネスマナーの違いやベトナム人の働き方、異文化理解は欠かせないテーマです。本記事では、日越ビジネス文化の特徴や、現地IT企業との協業で起こりやすい課題・すれ違いを事例付きで紹介しています。信頼関係を築くための実践的ヒントをお届けします。
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はじめに
近年、日越間の経済・人材交流はますます活発になっており、オフショア開発や現地進出を検討する日本企業も増え続けています。こうした協業の機会が広がる一方で、異文化やビジネスマナーの違いによって、思わぬ誤解やすれ違いが生じるケースも少なくありません。
実際、ベトナム側でも日本の文化や働き方への理解が進みつつありますが、日本企業側にとっても、ベトナム人材や現地パートナーの価値観・商習慣を正しく理解することが、信頼関係の構築と業務のスムーズな遂行につながる大きな鍵となります。
本記事では、ベトナムと日本のビジネスマナーや働き方の違いに焦点を当て、文化的背景を踏まえた上での具体的な対応策を紹介します。実務でありがちな場面を切り取りながら、現地スタッフとの信頼構築やプロジェクト推進に役立つヒントをお届けします。
ベトナム進出を検討中、または既に現地と協業中の企業様にとって、現場で本当に役立つ気づきが見つかることを願っています。
ベトナム進出前に知っておきたい5つの文化ギャップ
- 時間の感覚の違い:「開始時刻より前に準備する」のが常識とされますが、ベトナムでは「開始時刻ちょうど」に入室することが一般的です。
- 業務の進め方の違い:日本は計画重視、ベトナムは状況に応じて柔軟に対応するスタイルが一般的です。
- 挨拶や日常会話のスタイル:初対面でもフレンドリーに接し、個人的な質問を交えるのがベトナム流です。
- 指示の受け取り方:あいまいな依頼表現(例:「〜してもらえる?」)は、ベトナム人には「やってもやらなくてもいい」と捉えられる可能性があります。
- 飲みニケーションの価値観:付き合いは重視されますが、若手を中心に強制的な飲み会は敬遠されがちです。
なぜこうした違いが生まれるのか?どう向き合えばいいのか?その答えは、記事の中にあります。
1.ベトナム人の働き方の特徴とその背景
解説: ベトナム人の働き方には、日本の現場とは異なるスタイルがいくつか見られます。特に顕著なのが、「時間」に対する感覚や、業務の進め方です。日本では「計画通りに、一つずつ確実に進める」ことが重視されますが、ベトナムでは「柔軟に優先順位を変えながら進める」ことが一般的です。結果として、マルチタスクやその場対応が得意な人が多く、状況に応じて判断を変えるケースも少なくありません。
効率を重視する傾向があるベトナムでは、状況に応じて柔軟に手順を変えたり、複数の業務を同時に進めたりすることがよく見られます
ケース: ある日系企業では、開発チームに対して「まずAを終えてからB・Cを進める」という指示を出していました。しかし、定例ミーティングで「Aはまだですが、BとCは先に完了しています」と報告され、日本側が驚いたというケースがありました。ベトナム側のリーダーは「工数的に先に進められるものを動かした方が全体効率がいいと思った」と説明していました。実際、こうした判断は現場では珍しくありません。
背景: こうした行動の背景には、いくつかの要素が考えられます。まず、若手が多いベトナムのIT業界では、スタートアップ文化の影響もあり、「決められた通りに進める」よりも、「状況に合わせて最適な動きをする」ことが重視されがちです。また、成果やスピードが評価されやすく、個人の判断で柔軟に動くことが「できる人」として認識される傾向もあります。日本側が「指示を守っていない」と感じる場面でも、本人の中では「結果重視でベストを尽くした」という感覚で動いていることが多いのです。
アドバイス: こうしたスタイルの違いを前提に、日本側としては「何を・いつまでに・どういう順序で・なぜそうするのか」をできるだけ明確に伝えることが大切です。 また、指示ではなく、認識のすり合わせとして対話を重ねることで、「この順番には意味がある」と納得感を持ってもらえる可能性が高まります。Yopazでも、こうした対話の積み重ねを重視し、文化的な前提の違いによるすれ違いを最小限に抑える開発体制を整えています。
実際、「言われた通りにやってくれればいいのに」と感じてしまう場面こそ、コミュニケーションの仕方や価値観にズレがあるサインなのかもしれません。
2.コミュニケーションスタイルの違いと注意点
解説: ベトナム人と日本人の間では、コミュニケーションのスタイルにおいて微妙な違いがあり、それが業務上のすれ違いにつながるかもしれません。たとえば、ベトナム人は率直に意見を伝える一方で、相手を気遣って本音を控えることもあります。 その柔らかさとストレートさの使い分けは、日本人にとって読み取りづらく、戸惑いにつながることも少なくありません。
ケース: 実際のプロジェクトでも、「何か困っていることはありますか?」と日本側が確認した際に、ベトナム側からは「大丈夫です」「特に問題ありません」と返ってきました。しかし後になって、実は工数管理、適材適所の人員配置に苦労していたことがわかりました。「自分たちで何とかできる」と判断していたこともあり、問題を共有するタイミングを逃してしまったのです。
ビジネスの現場では、パートナーの要望に応えるために、ベトナム企業が自ら負担を引き受けて対応しているケースも少なくありません
背景: こうした反応の背景には、ベトナム文化における“面子(メンツ)”や対人関係への配慮が深く関係しています。相手を否定せず、場の和を乱さないようにすることが重視されており、「断る」「指摘する」といった行為に対して慎重になっています。一方で、信頼関係が築かれた相手に対しては、率直な意見交換も活発に行われるため、話し方や距離感が文脈によって大きく変化するのも特徴です。日本のように一貫したハイコンテクスト型とは異なる、独特の揺らぎがあるといえるでしょう。
アドバイス: 業務を進めるうえで、特に何か問題が発生したときこそ、お互いに率直に話しやすい雰囲気をつくることが大切です。緊張感のある空気では、本音が出しづらくなってしまいます。また、ベトナム側も「気を遣う」だけでなく、必要なことはしっかり伝える姿勢を持つことで、協業はよりスムーズになります。実際、こうしたすり合わせを続ける中で、日越の企業同士が良い呼吸感で連携できるようになってきた例も多くなっています。
3.意思決定のスピードとプロセスの違い
解説: 日本とベトナムは、いずれも上下関係を重視する組織文化を持っていますが、「権限の分配」に対する受け止め方には違いがあります。
ベトナムでは、意思決定が主にPMやマネージャー、チームリーダーなど、管理職層と上層部に集中する傾向があります。現場スタッフが独自に判断することは少なく、指示を待つスタイルが一般的です。意思決定が少数のリーダーに集中しやすいため、進行が速い反面、担当者レベルでの柔軟な対応が難しくなります。一方、日本企業でも階層構造はありますが、現場からの意見を吸い上げて、関係者間で合意を形成しながら進めていくスタイルが一般的です。その分、意思決定には時間がかかりますが、組織内での納得感や共有度は高まります。
このように、どちらもヒエラルキー型ではあるものの、実際の現場運営では「どこに判断権があるか」「どのように進めるか」に大きな違いが現れます。
ケース: ある日系企業では、現地のベトナム人スタッフを対象に、制度や職場環境に関する意見を自由に出し合う社内アンケート・ヒアリングを実施しました。日本側は「気づいたことがあれば何でも共有してほしい」というスタンスでフランクに声をかけていましたが、多くのスタッフが発言を控える様子が見られました。実は、ベトナム側にとって「上司の方針に従うべき」「場の空気を乱してはいけない」といった意識が働き、特に全体の場では本音を出しづらかったようです。
背景: こうした行き違いの背景には、意思決定に対する捉え方や組織内の役割分担に対する意識の違いがあります。日本では、現場からの意見を吸い上げて関係者間で合意形成を図りながら進めていくスタイルが多く見られ、判断プロセスは比較的オープンかつ段階的に進みます。一方、ベトナムでは、特に中小企業や家族経営の企業において、経営者やマネージャーが最終的な判断を担うケースが多く、現場スタッフは上司の承認を待ってから動く傾向があります。
実際、国際的な文化調査によると、「権力格差」のスコアはベトナムが日本よりも高く、上下関係の受け入れ度合いに違いがあることが示されています。このような文化的背景も影響し、ベトナムでは上司の指示を待つスタイルが自然とされ、日本側の期待するような自律的な判断”やその場の即答が難しい場面もあるのです。
ホフステードの6次元モデルは、文化の違いを理解するために役立つ分析フレームワークです
このように、どちらも上下関係を重視する文化ではありますが、意思決定の進め方や“裁量の所在”に対する前提が異なるため、業務上のズレが生まれやすくなっています。
アドバイス: やり取りをスムーズに進めるためには、まず「この件は誰が最終的に判断するのか?」を最初に確認しておくことが大切です。役職だけでなく、実際にGOサインを出せる人物を明確にしておくことで、後々のすれ違いを防ぐことができます。
また、現場のスタッフは「間違うくらいなら上司の指示を待とう」と考えることが多く、曖昧なまま動くのを避ける傾向があります。日本側としては、「この件は〇日までに意思決定が必要です」といったタイムラインを共有し、判断の猶予を事前に伝えておくと、お互いに安心して進められるはずです。
即答を求めるのではなく、「今すぐ答える必要はない」という前提で進めることが、信頼関係を築くうえでも効果的です。
4.ビジネスにおける異文化の表現と対応策
ここまで、働き方やコミュニケーション、意思決定といった「仕事の進め方」に関する違いを見てきましたが、実は、日々のちょっとした振る舞いや所作にも、文化の違いが表れます。それ自体は大きな問題ではなくても、積み重なることで違和感やストレスにつながり、時には関係性に影を落とすこともあります。日本とベトナム、それぞれの「当たり前」がすれ違うとき、 どうすれば互いに気持ちよくやりとりができるのでしょうか。ここでは、特に注意したい3つのポイントを取り上げます。
4.1. 時間ちょうど=ギリギリ」?日本とベトナムの感覚のズレ
解説: 日本では、「時間を守ること」は人としての信頼を左右するほど重要視されています。会議や面談では「開始時刻の数分前にスタンバイしておく」ことが当然とされ、それが礼儀とされています。一方で、ベトナムでは「数分程度なら問題ない」という感覚もあり、時間を幅として捉える傾向があります。
ただし、ここ数年で日系企業との取引が増えたことで、時間の正確さを重視する動きも広がっています。実際、オフショア開発や現地法人の中には、「会議には5分前集合」といった社内ルールを整備し、社員へのトレーニングを行っている企業も増えています。
ケース: ある日系企業がベトナムのスタッフと14時にオンラインミーティングを予定していた際、日本側は5分前には全員ログインを済ませていましたが、ベトナム側は14時ぴったり、あるいは1〜2分ほど遅れて入室する場面が一度ありました。日本側は「相手は時間にルーズなのかもしれない」と感じたものの、ベトナム側にとっては「開始時刻に入れば問題ない」という感覚で、むしろ「きっちり間に合っている」という認識だったようです。
日越の「時間感覚」のズレ
背景: ベトナムでは、交通状況やインフラの事情により、多少の遅れが日常的に起こり得るため、時間に対する考え方が日本ほど厳しくないという側面があります。また、上下関係よりも人間関係を重視する文化の中では、「少し遅れても、会ってからのやり取りの方が大事」と考える人も少なくありません。
アドバイス: ベトナムとのやり取りでは、「数分の遅れは文化的な違いによるものかもしれない」と一歩引いて捉える姿勢があると、無用なストレスを減らすことができます。一方で、プロジェクトをスムーズに進めるためには、あらかじめ「この会議は厳守でお願いします」といった形で、日本側の期待を丁寧に共有することも効果的です。
4.2. 「フレンドリー」と「失礼」のすれ違い
解説: ベトナムの人々は、初対面でも笑顔でフレンドリーに接することが多く、会話の距離も比較的近い印象を受けます。一方で、日本では、丁寧な言葉づかいや適度な距離感が「礼儀正しさ」の基準として捉えられており、その違いに戸惑う方も少なくありません。
「礼儀」と聞くと、日本では形式や言葉づかいが重視される傾向がありますが、ベトナムではどちらかというと「相手を思いやる姿勢」や「誠実な態度」が重視されます。つまり、「礼儀とは形」ではなく、気持ちや関係性に根ざしたものとして捉えられているのです。
ケース: ある日系企業のスタッフが、ベトナム側の若手メンバーに対して「田中さん」と呼ばれた際、少し驚いたという話がありました。日本では「田中様」や「部長」といった呼び方が一般的ですが、ベトナムではさんでさえ丁寧な表現として使われることがあり、失礼なつもりはまったくなかったそうです。
また、アイスブレイクとして「おいくつですか?」「ご結婚は?」といった質問が交わされることもありますが、これはベトナムにおける相手を知りたいという純粋な好意から来ている場合が多く、日本人にとっては少し踏み込みすぎに感じられるかもしれません。
ベトナムでは普通の挨拶でも、日本人には少し違和感を与えることがある
背景: ベトナムには日本のような敬語の体系が存在せず、社内でも上下関係を厳格に言葉に反映させる文化はあまり根付いていません。その代わりに、「相手を立てる」「話を最後まで聞く」「表情で伝える」など、非言語的な要素によって礼儀を表現する傾向があります。
つまり、言葉や形式にこだわらないからこそ、逆に“人柄”や“空気を読む力”が重視されるとも言えるでしょう。この違いを知らずに接すると、「失礼だ」と感じてしまうこともありますが、多くの場合、背景を知れば納得できるものです。
アドバイス: 言葉づかいや振る舞いが自分の常識と違っても、まずは「相手に悪気はなかったかもしれない」と呼吸おいて考えることが、良好な関係づくりの第一歩です。また、日本側のマナーを丁寧に共有しつつ、相手の文化的な価値観も尊重する姿勢を持つことで、互いの信頼はぐっと深まります。
「違うとは失礼」と決めつけず、「違うからこそ、一度ちゃんと話してみる」。 そんなスタンスが、異文化の中でうまくやっていくヒントになるのではないでしょうか。
4.3. 付き合いのつもりが、逆に距離を生むことも?
解説: 日本のビジネスシーンでは、「飲みニケーション」が人間関係を深める大切な手段として受け入れられてきました。仕事中は言いにくいことも、飲みの場では素直に話せるので、そんな空気感の中で信頼が育まれると考える方も多いでしょう。
日本では、飲み会は社内のつながりを深める大切な場だと考えられています。 でも、ベトナムの人たちも同じように感じているのでしょうか?
一方、ベトナムでは「飲み会とはオフタイム」という意識が強く、仕事とプライベートをしっかり分けたいという価値観を持つ人が少なくありません。特に若い世代を中心に、「仕事の延長として飲みに行く」という発想そのものに違和感を覚えるケースもあります。
ケース: ある日系企業のマネージャーが、チームとの距離を縮めようと飲み会を企画したところ、ベトナム側のメンバーがあまり乗り気ではなく、参加率も低かったということがありました。マネージャーとしては「もっと打ち解けたかった」と感じた一方で、ベトナム側は「プライベートな時間を大切にしたい」「付き合いで飲むのは苦手」と思っていたようです。
背景: ベトナムでは「飲み会とは交流の場」として楽しまれることはありますが、それはあくまで自由参加のプライベートな集まりという認識が強いです。また、会社によっては「飲みの席で仕事の話をしない」ことを暗黙のルールとしているところもあります。
一方で、一部の業界や年齢層では、「飲みの場で話がまとまり、契約が決まる」といった文化が根づいているケースも存在します。しかし、日系企業と取引のあるベトナムのIT企業では、そうした文化はほとんど見られず、業務上の合意や重要な確認は、あくまで文書ベースで正式に行うというスタンスが一般的です。
アドバイス: ベトナム人メンバーとの関係を深めたい場合は、飲み会以外の形で信頼関係を築く方法も検討してみましょう。たとえば、ちょっとした雑談の時間を作る、成果を素直に言葉で褒めるなど、飲まなくてもできる距離の縮め方はたくさんあります。
なお、最近の若手層では、「会社のための時間」と「自分の時間」をしっかり分けたいという意識も高まっており、「付き合いで何かを強制される」ことに敏感な傾向があります。大切なのは、みんなでやるよりも、一人ひとりに合う関わり方を工夫すること。だからこそ、「こうあるべき」ではなく、「どうしたらお互いにとって気持ちいいか」を起点に考える姿勢が、異文化チームには求められます。
4.4. “ちょっとした違い”が、関係性に大きく響くとき
時間感覚、挨拶や会話の距離感、そして飲みニケーションのなど、どれも日常的で些細なことのように見えますが、意外と文化の違いが出やすいポイントでもあります。本人に悪気がなくても、背景や価値観が異なれば、それだけで「えっ?」というすれ違いが生まれることもあります。
だからこそ、「違いがある」ことを前提に、相手の立場や文化を一度受け止めてみる。 それだけで、不要なストレスや誤解を避け、よりスムーズな関係づくりができるようになります。ビジネスマナーに「これが正解」という形があるわけではなく、あるのは、お互いを尊重しながら“ちょうどいい形”を一緒に見つけていこうとする姿勢です。
5.おわりに:文化の違いを乗り越え、信頼関係を築くには
国ごとに異なる文化や価値観の中で、考え方や働き方にズレが生まれるのは、ごく自然なことです。大切なのは、その違いを壁として避けるのではなく、橋として理解を深めていこうとする姿勢ではないでしょうか。日々のすれ違いを「仕方ない」で終わらせず、相手の背景に耳を傾けてみましょう。 そんな小さな積み重ねが、異文化の中での信頼を少しずつ築いていきます。
YOPAZでは、これまで数多くの日系企業との協業を通じて、日本とベトナムそれぞれの文化や価値観を理解し、円滑な連携を支える体制を築いてきました。単なる受託開発ではなく、「人と人」として信頼を重ねていけるパートナーシップを何よりも大切にしています。アプリ・ゲーム開発、Webシステム構築、AI・自動化、業務システムまで、幅広い技術領域で多様なニーズに対応可能です。異文化の違いを乗り越えながら、現地パートナーと安心してプロジェクトを進めたい──そんな思いをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。