
近年、日本企業のベトナム進出が加速しています。人口減少による労働力不足、国内市場の成長鈍化、DXの波。これらの課題を乗り越えるため、多くの日本企業が海外展開を加速させています。その中でもベトナムは、安定した経済成長、優秀なIT人材、政府の積極的な外国企業誘致政策などにより、特に注目される市場です。
しかし、ベトナムに進出したすべての企業が成功しているわけではありません。むしろ、多くの企業が文化・ビジネス環境の違いに適応できず、撤退を余儀なくされています。
では、成功する企業と失敗する企業の違いは何か?本記事では、ベトナム進出で成果を上げた日本企業の共通点を分析し、実践的な戦略を提示する。
この記事で分かること
- 「成功する日本企業には共通の法則がある」──なぜ、同じベトナム市場で一方は成功し、一方は撤退するのでしょうか?
- 「2025年、日本企業の海外戦略は転換期を迎える」──労働力不足・コスト高騰・DX推進の波の中で、ベトナム市場の重要性がますます高まっています。
- 「今こそ、競争優位を確立する決断の時」──市場トレンドを見極め、正しい戦略を採用することが成功のカギです。
- 「単なるコスト削減では勝てない」──品質管理・人材活用・現地パートナーシップが決め手です。
- 「実例が語る、勝ち組企業の条件」──日本企業の成功事例・失敗事例から学ぶ、ベトナム市場で勝つための秘訣です。
目次 |
1. ベトナム市場の投資の潜在力
ベトナムは東南アジアで最も急成長している経済の一つで、ビジネス環境で大きな潜在力を持っているため、外国投家の注目を集めています。
では、ベトナム市場の投資の潜在力は何か、一緒に調べてみましょう。
1.1 継続的な経済成長
ベトナムは過去10年間、平均6~7%のGDP成長率を維持しており、東南アジアで最も成長が期待される市場の一つです。特に、IT、製造業、サービス業の分野では今後さらなる発展が見込まれています。
1.2 若く優秀な労働力
ベトナムの人口は約1億人に達し、ASEAN諸国の中でも比較的人口規模が大きい国の一つです。その中でも特に注目すべきは、人口の約70%が35歳以下という点です。これは、今後数十年間にわたり労働力が豊富に供給されることを意味します。
特に、ITやエンジニアリング分野では、以下のような特徴が見られます。
① 急成長するIT人材市場
ベトナムでは政府の支援を受けたIT教育プログラムや、海外企業との提携による技術研修が盛んに行われており、優秀なエンジニアが育成されています。ハノイ工科大学やホーチミン市工科大学などの有名大学が、毎年数多くのIT人材を輩出しています。
② 給与水準の上昇と質の向上
ベトナムのエンジニアの給与は、10年前と比較して経験年数やスキルセットに応じて上昇傾向にありますが、それでも日本と比べるとコスト面で優位性があります。
具体的に、TopDevによりVietnam IT Market Report 2024-2025レポートによる、Junior~Middleレベルのエンジニア給与は前年比べて5~10%上昇します。Senior〜Leadレベルでは15%以上の上昇も見られます。
出典:Vietnam IT Market Report 2024-2025
さらに、 ベトナムのエンジニアは最新の技術トレンドに対応するためのスキルを積極的に習得しており、企業のデジタルトランスフォーメーションを支える重要な存在となっています。
出典:Vietnam IT Market Report 2024-2025
1.3 コスト競争力
ベトナムの最大の魅力の一つが「コスト競争力」です。具体的に、
① 人件費の低さ
例えば、ITエンジニアの平均月給は、日本国内と比べると3分の1〜5分の1程度です。また、製造業の工場労働者の給与も、同様に低コストで雇用が可能です。
② オフィス賃料の安さ
ハノイやホーチミンといった大都市でも、東京や大阪と比べるとオフィス賃料は大幅に低いです。企業が現地法人を設立する際の初期投資を抑えられる点も魅力的です。
③ インフラコストの低減
ベトナム政府は、インフラ整備を積極的に進めており、電気・水道・通信環境の改善が進んでいます。これにより、企業のランニングコストも抑えられます。
1.4 ASEAN市場へのゲートウェイ
ベトナムはASEAN市場の中心に位置し、シンガポール、タイ、インドネシアなどの主要市場へのアクセスが容易です。東南アジア全体を視野に入れた事業展開の拠点としての価値も高まっています。
1.5 政府の積極的な外資誘致
2024年、ベトナムは外国直接投資(FDI)において過去最高の実績を記録しました。総FDIは382億3,000万米ドルに達しました。そして、2025年の最初の3ヶ月で、ベトナムへのFDIは前年同期と比較して7.2%増加し、49億6,000万米ドルに達しました。
出典:Ministry of Planning and Investment, VietNam
ベトナム政府は、外国直接投資(FDI)を促進するためのさまざまな政策を打ち出しています。
① 税制優遇措置
ベトナムでは、特定の業種(IT、ハイテク、製造業など)や地域(工業団地、経済特区など)に投資する外国企業に対し、法人税の減免や免税期間を提供しています。
出典:ベトナム進出で知っておくべき【ベトナム税制優遇】とは?
② 規制緩和
以前に比べ、外資企業の設立手続きが簡素化され、100%外資の企業も設立しやすくなっています。
③ 投資環境の整備
ベトナムは「ビジネスしやすい国」としての評価を高めるため、インフラ整備、労働法の改正、貿易手続きのデジタル化などを進めています。
ベトナムは、経済成長のスピード、優秀な人材、コスト競争力、ASEAN市場へのアクセス、そして政府の外資誘致政策と、投資先としての魅力が非常に高い国です。日本企業がこの市場を活用することで、コスト削減だけでなく、新たな成長機会を得ることができます。
今後のアジア戦略を考える上で、ベトナムは欠かせない存在となるでしょう。
2. 日本企業のベトナム進出動向
近年、日本企業のベトナム進出は着実に増加しています。以下のグラフは2020年までの日本企業のベトナム進出拠点数の推移を示しています。
出典:外務省
このグラフからも明らかなように、ベトナムへの日本企業の進出は年々増加傾向にあり、特に2020年には過去最大の進出拠点数を記録しました。
今後も、日本企業のベトナム進出はさらに加速すると予想されております。具体的に、2025年の日本企業のベトナム市場への投資は、どんな業界で特に活発化しているか、一緒に調べましょう。
2.1 IT・デジタルサービス
① オフショア開発・DX支援
日本企業のIT人材不足を補うため、ベトナムの優秀なエンジニアを活用したシステム開発、AI・クラウド技術の導入が進んでいます。
② SaaS・フィンテック
ベトナムの急成長するデジタルエコノミーに対応し、日本企業が提供するSaaSや金融テクノロジーサービスが増加します。
2.2 製造業・サプライチェーン
① 脱中国(チャイナ・プラス・ワン)戦略
リスク分散のため、電子機器、自動車部品、精密機械の生産拠点をベトナムに移転する動きが加速します。
② スマートファクトリー
IoTやロボティクスを活用した生産効率化の導入が進んでいます。
2.3 小売・消費財
① コンビニ・スーパー・EC
中間層の増加に伴い、日本ブランドの食品・日用品が人気。セブン-イレブンやイオンなどの進出が加速します。
② 美容・ヘルスケア
日本の化粧品や健康食品の市場が拡大し、ECを活用した販売戦略も活発化します。
2.4 再生可能エネルギー・環境ビジネス
① 太陽光・風力発電
ベトナム政府の政策支援により、日本企業が再生可能エネルギー発電プロジェクトに投資します。
② 環境技術
水処理、廃棄物リサイクル技術の導入が進みます。
2.5 物流・インフラ
① スマート物流・倉庫管理
ECの発展とともに、物流最適化のための投資が増加します。
② 都市インフラ開発
鉄道・道路・港湾整備への日本企業の関与が続きます。
日本企業は、ベトナム市場の成長性を見極めながら、デジタル技術や環境配慮型の事業を強化し、新たなビジネス機会を模索しています。
ベトナム市場は急速な経済成長と若年層人口の多さを背景に、多くの企業にとって魅力的な進出先となっています。以下、ベトナム市場で成功するためのポイントを分かりやすくまとめていきます。
3. ベトナム市場で成功するためのポイント
3.1 現地市場の深い理解と適応
ベトナム市場は急成長しているものの、消費者の嗜好やビジネス慣習は日本とは大きく異なります。日本と同じ戦略をそのまま適用すると、期待した成果を得られない可能性が高いです。
成功のポイント
市場調査の徹底:現地の消費動向、競争環境、規制を十分に調査する
ローカルのパートナーと提携:ベトナム市場に精通した現地企業と連携し、ビジネスの成功確率を高める
ベトナム人の価値観や文化に合わせたマーケティング:例えば、価格の敏感度が高いため、コストパフォーマンスの良さを強調する戦略が有効
3.2 人材の確保と育成
ベトナムの労働市場には優秀な人材が多いものの、日本と異なる雇用文化やキャリア志向を理解しなければ、優秀な人材の定着が難しいです。
成功のポイント
現地社員のキャリアプランを尊重する: ベトナム若者労働者はキャリア志向が強く、自己成長や環境の良さを重視します。企業側がそれに答えられない場合、優秀な人材ほど他社に流出する傾向があります。したがって、重要なのは単なる人件費を低さを狙った採用ではなく、「長期的な戦力」として人材を育てる企業文化の構築
日越の文化ギャップを埋める教育:日本式のマネジメントを押し付けるのではなく、ベトナムの文化を考慮したマネジメントを実施
チームのモチベーション管理:評価制度を透明にし、成果をしっかりと認めることで、エンゲージメントを高める
3.3 デジタル活用とローカル適応
ベトナムではスマートフォンの普及率が高く、ECやキャッシュレス決済の導入が急速に進んでいます。デジタル戦略を無視すると、競争力を失うリスクがあります。
成功のポイント
オンライン×オフラインの融合:ECと実店舗の連携を強化し、O2O(Online to Offline)戦略を展開
デジタルマーケティングの強化:Facebook、Zalo(ベトナム版LINE)などの現地SNSを活用した広告・プロモーションが重要
現地の決済手段を導入:MomoやVNPayなどのモバイル決済を活用し、利便性を高める
3.4 政府政策・法規制への対応
ベトナムの法規制は頻繁に変更され、外資系企業に対する規制も業界によって異なります。法的リスクを適切に管理しないと、事業の継続が困難になる可能性があります。
成功のポイント
最新の法律・税制を把握する:JETROや現地の法律事務所と連携し、最新の規制をチェック
現地パートナーと協力:ベトナムの行政との交渉をスムーズに進めるため、現地企業との提携が有効
コンプライアンスを徹底:特に労働法、データ保護法、税制の変更には注意が必要
3.5 長期的視点での投資とブランド構築
短期的な利益を追求するのではなく、中長期でのブランド価値向上を目指す企業が成功しています。
成功のポイント
現地市場に根付くブランド戦略:日本品質を活かしながら、ベトナムのニーズに応えた商品・サービスを提供
社会貢献活動の実施:CSR(企業の社会的責任)を重視し、現地コミュニティとの関係を強化する
持続可能なビジネスモデルの構築:急成長するベトナム市場に合わせ、柔軟にビジネスモデルを進化させる
ベトナム市場で成功するためには、「日本のやり方」をそのまま持ち込むのではなく、現地の特性に適応しながら、日本の強みを活かすバランス感覚が求められます。特に、市場調査、人材育成、デジタル活用、法規制対応、ブランド構築の5つを意識することが、持続的な成長につながるでしょう。
4. ベトナム市場への進出で成功した日本企業の事例
ここから、ベトナム市場への進出で成功した日本企業の事例とその成功要因をご紹介します。
4.1 本田技研工業株式会社 (ホンダ)
ホンダは1996年にベトナム法人を設立し、翌年から現地でのバイク生産を開始しました。 ベトナムはバイク社会であり、高品質な日本製バイク=ホンダというブランドイメージが浸透しています。
これにより、ホンダはベトナム市場で圧倒的なシェアを獲得しました。具体的に、2024年の二輪車市場において、販売台数が2,147,025台で、前年度比べて2.8%増加し、本田は約80.9%の市場シェアを維持しています。
4.2 イオンモール株式会社
イオンモールはホーチミン市に1号店を開業し、その後も大型店舗を順次展開しています。
成功要因として、政府との良好な関係構築、親日的な消費者の存在、競合他社が少ない市場環境が挙げられます。また、植樹活動や寄付活動などの社会貢献を通じて、現地コミュニティとの信頼関係を築いたことも成功に寄与しています。
イオンモールは2024年度において、ベトナム市場で顕著な実績を達成しました。具体的に、42億3000万円の営業利益を記録し、専門店の売り上げが前年比8.6%増加しました。
ベトナム市場は、イオンモールにとって利益性の高い「戦略的成長拠点」と位置づけられています。
4.3 IT企業のオフショア開発成功事例
大手Sler A社はエンジニア不足とコスト高騰に対応するため、ベトナムに開発拠点を設立しました。高度なIT人材の採用と日本側との密な連携により、コスト削減だけではなく高品質なシステム開発体制を構築しました。
成功・定着を重視した人材戦略と現地パートナーとの信頼関係が成功のカギとなり、オフショア拠点を単なる外注先でなく、戦略的開発パートナーとして機能させた好例です。
4.4 トヨタ自動車株式会社
トヨタはベトナムでの自動車生産・販売を通じて、市場シェアを拡大しています。高品質な製品と信頼性の高いブランドイメージが、ベトナムの消費者に受け入れられています。
4.5 キリンホールディングス株式会社
キリンはベトナムのビール市場に参入し、現地の嗜好に合わせた製品展開とマーケティング戦略で成功を収めています。現地企業との提携や市場調査を徹底し、消費者ニーズに応えたことが成功要因です。
4.6 ファミリーマート
ファミリーマートはベトナムの都市部を中心にコンビニエンスストアを展開し、現地の消費スタイルに適応した商品ラインナップとサービスで人気を博しています。現地パートナーとの協力や市場調査を通じて、ベトナム特有のニーズに応えたことが成功の鍵となりました。
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終わりに
ベトナム市場は、成長の可能性に満ちた「次なるフロンティア」です。継続的な経済成長、若く優秀な労働力、デジタル化の進展などのような要素が、日本企業にとって絶好のビジネスチャンスをもたらしています。
しかし、成功を手にするためには、単なる市場参入ではなく、現地適応と戦略的な視点が不可欠です。日本の強みを活かしつつ、ベトナムの文化・ビジネス環境に柔軟に適応する企業こそが、長期的に成長できるでしょう。
「10年後、あなたの会社はベトナム市場でどのようなポジションを築いているだろうか?」
その未来を決めるのは、今の決断です。チャンスを逃さず、次の一手を打ちましょう。
ベトナム進出の成功は、戦略と行動にかかっています。
未来への扉を開くのは、今です。