
国際展開を検討する日本企業にとって、ベトナムは有望な投資先です。本記事では、その魅力や進出事例、今後の投資トレンドを解説し、戦略立案のヒントを提供しますこの機会を逃すことなく、ぜひ日本企業の皆さまにはベトナム投資に向けた包括的な戦略を描き、双方にとって有益な関係を築いていただければ幸いです。
目次 |
はじめに
2025年現在、ベトナムは安定した経済成長、豊富な人材、そして政府による外資誘致政策を背景に、日本企業にとって戦略的な投資先としての存在感を高めています。本記事では、ベトナム投資の現状、注目される成長分野、今後の投資トレンド、そして実際に進出している日系企業の事例をまとめてご紹介します。ベトナム市場への進出を検討されている企業様にとって、戦略立案に資する知見をご提供します 。
お忙しい方のために、この記事の核心ポイントを3つにまとめました:
- ベトナムは、経済成長・政治安定・日本との信頼関係という3拍子揃った魅力的な投資先です。
- 現在、製造業中心だった投資構造が「デジタル分野」へとシフトしており、日越間のテック連携が加速しています。
- Panasonic、NEC、INAXなど、大手に限らず多くの企業がベトナムに進出し、それぞれの強みを活かしたビジネスを展開しています。今こそ、貴社らしい展開のヒントを見つけてみませんか?
ベトナム投資に関心がある方は、ぜひ本編で全体像と実践ヒントをご覧ください。
1. 日本企業が注目するベトナム市場の3つの魅力
グローバル化が進む現在、海外への投資先の選定は、日本企業にとって極めて重要な経営判断のひとつとなっています。インド、タイ、インドネシアといった新興国は、豊富な労働力と成長する消費市場を背景に、引き続き注目を集めています。
しかし、その中でもベトナムは、安定した経済成長、政治的な安定性、そして日本との緊密な協力関係といった要素により、他国とは一線を画す存在感を示しています。これらの強みは、ASEAN諸国の中でも際立った魅力といえるでしょう。
以下では、日本企業にとってベトナムが魅力的かつ独自性のある投資先であるとされる、3つの主要な理由をご紹介します。
1.1. 安定した経済・政治体制がもたらす中長期的な安心感
新興国への投資を検討する際、多くの日本企業が直面するのが「政情の不安定さ」や「政策の急変リスク」です。実際、タイでは政権交代に伴う政策の不透明さ、インドネシアでは地域による制度のばらつきが、長期的な事業計画に影響を及ぼすケースも見られます。
ベトナムは過去10年以上にわたり、年平均6〜7%という安定した経済成長を維持しています。さらに、ベトナム政府は2025年までにGDP成長率を8%まで引き上げることを目標としており、それに伴い、抜本的かつ包括的な改革を進めています。これにより、同国の経済成長見通しは一層明るいものとなっています。
ベトナムの四半期別経済成長率(2015〜2024年)|出典:Trading Economics
加えて、ベトナムは一党制を採用しており、政策の継続性と一貫性が高いため、外資系企業にとって長期的な事業計画を立てやすい環境が整っています。また、社会的な安定や治安の維持にも力を入れており、ビジネスを展開する上で安心できる平和な環境が確保されています。
このように、経済と政治の両面での高い安定性は、外資系企業にとって「予測可能な未来」を描ける大きな強みとなります。ベトナムはASEAN諸国の中でも希少な、信頼性の高い中長期的な投資先としての地位を確立しつつあります。
1.2. 日本企業にとって最も協力的なパートナー関係
タイやインドネシアなど、ASEAN諸国の多くが日本との経済連携を進めていますが、その中でもベトナムは、日本企業から「特に協力的なパートナー」として評価されることも少なくありません。2023年には両国関係が「アジアおよび世界の平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」へと格上げされ、経済・投資・人材分野での連携が一層強化されています。
日越の関係強化により、投資活動がより円滑に進められるようになっています|出典:Saigon Times
日本は長年にわたりベトナム最大のODA供与国であり、交通インフラや都市開発、医療教育分野などで数多くの協力実績があります。ベトナム政府も日本企業を重要なパートナーと位置づけ、税制優遇や行政支援、産業団地整備などの支援策を積極的に実施しています。
こうした信頼関係と制度的な協調は、ベトナムを「日本企業にとって 制度的に円滑な進出が可能な国」として際立たせる要因となっています。現在、ベトナム計画投資省の統計によると、2024年11月末時点で、日本はベトナムに対して合計5,473件の投資プロジェクトを実施しており、登録投資額は累計776億4,000万米ドルを超えています。
1.3. IT・デジタル分野における即戦力人材の確保が可能
日本企業がIT分野で海外展開を進める上で、重視されるのは技術力に加え、日本語対応や開発スタイルへの適応力です。その点で、ベトナムは他国よりも現場レベルでの親和性が高いと言われています。若く優秀な人材が豊富で、日本語を話せるエンジニアも多く、日系企業との協業経験を持つ人も少なくありません。教育機関では実践的なカリキュラムも整備されており、即戦力人材の育成が進んでいます。
その結果、オフショア開発や業務DXを目的に、ベトナムを開発拠点とする日本企業が年々増加しています。その中で、当社YOPAZも、高品質な人材と丁寧な対応力が評価され、日本企業からオフショア開発パートナーとして注目されるようになっています。
1.4. 新興国の中で際立つ、ベトナムという選択肢
ベトナムは、政治・経済の安定性、親日的な制度環境、そして日本語対応が可能なIT人材という3つの強みを兼ね備えて、極めてバランスの取れた投資先です。新興国の中でも、日本企業にとって「動きやすく、安心して長期的に取り組める市場」として、今後さらに存在感を高めていくでしょう。
2. 日本からの対ベトナム投資の現状と主要分野
ベトナムが日本企業にとって魅力的な投資先である理由を見てきましたが、実際にどのような分野に投資が行われているのでしょうか。本章では、最新の統計データをもとに現在の投資状況を可視化し、注目すべき分野や今後の動向について整理していきます。
2.1. 分野別の投資割合と動向
これまで日本企業によるベトナムへの投資は、製造業を中心に展開されてきました。しかし、近年では非製造業、特にサービス業への投資が着実に拡大しています。
具体的には、JETROの「ベトナムの貿易投資年報」によると、2023年における日本からの新規・拡張の直接投資は470件(前年比15.8%増)となり、件数ベースでは増加傾向が見られました。しかし、製造業の割合は年々減少しており、2023年の新規認可316件のうち、製造業はわずか67件(21.2%)にとどまっています。一方で、小売・卸売業(25.9%)、情報通信業(19.6%)、コンサルティング(17.7%)などの非製造業分野が伸びており、投資の多様化が加速しています。
このように、生産拠点としての役割にとどまらず、ベトナム市場は今や消費・デジタル分野を含む多様な投資先として、日本企業の関心を集めています。
2023年に認可された日本の対ベトナム直接投資における業種別構成|出典:JETRO
2.2. IT分野における急成長の背景
前述のとおり、ベトナム市場における日本企業の投資は多様化しており、なかでもIT分野は成長スピードの速さが際立っています。DX(デジタルトランスフォーメーション)への関心が急速に高まる中で、システム開発や業務効率化、BPOなど、アウトソーシング需要が広がっていることが背景にあります。
日本国内ではDX対応の遅れやIT人材の確保難が課題となっており、開発体制を柔軟に構築できる海外拠点への関心が高まっています。こうした流れの中、ベトナムはコスト面の優位性に加え、時差や距離、政治的安定性といった総合的なビジネス環境が評価され、IT分野でのオフショア開発先として存在感を高めています。
さらに、ベトナム政府もICT分野を成長戦略の柱に掲げ、5G・クラウド・AIなど先端技術に関する国家プログラムを推進しています。例えば、ベトナムでは、IT関連の大学卒業生が年間約57,000人に上り、豊富な人材供給が続いています。
こうした政策と民間需要の両輪が、ベトナムにおけるIT分野の成長を後押ししており、今後さらに多くの日系企業がIT・デジタル関連分野への投資を拡大していくことが期待されます。
2.3. まとめ:多様化とDXが導く、日系投資の新たな潮流
つまり、日本からの対ベトナム投資は、かつての「生産拠点」一辺倒から様変わりし、ITやサービス、デジタル分野、特にDXやICTを軸とした新たな成長領域へと広がりを見せています。
日本国内の人材・コスト課題といった現実的なニーズに加え、ベトナム政府による政策支援や、豊富な若手IT人材の存在といった外部環境の後押しがあります。今後、ベトナムは「コストの安さ」だけでなく、「付加価値ある成長の受け皿」として、日系企業の中長期戦略における重要な位置を占めていくでしょう。
このような流れの中で、ベトナム国内ではITアウトソーシング分野の発展が加速しており、日本市場に対応可能な高品質な企業が数多く登場しています。これは、日本企業にとって非常に有利な環境と言えるでしょう。
3. ベトナム進出の参考になる日本企業3社の実例
ベトナム市場の可能性や投資の動向をひと通り押さえた今、実際にどのような日本企業が現地で事業を展開しているのか、気になる方も多いのではないでしょうか。本章では、企業規模や進出目的の異なる3つの事例をもとに、それぞれのアプローチや現地での工夫を紹介します。
3.1. Panasonicによるスマート工場化とベトナム戦略の再強化
2024年、Panasonicはベトナム・ハノイにある家電製品の主要生産拠点「Panasonic Appliances Vietnam」において、大規模なスマート工場化プロジェクトを開始しました。既存ラインの自動化・省人化に加え、IoT・AI・ロボティクスなどの技術を活用し、工程全体の可視化と品質管理の高度化を図っています。
パナソニック エレクトリックワークス ベトナムは、ビンズオン省の工場に新棟を建設し、2024年1月23日から本格稼働を開始しました|出典:Panasonic
同社は2003年からベトナムでの生産を本格化しており、現在ではエアコン、冷蔵庫、洗濯機などを現地で生産・輸出しています。今回のスマートファクトリー化は、同国を単なる生産拠点としてではなく、高付加価値型の製造・開発拠点として位置づけ直す動きといえます。
また、Panasonicはベトナム国内の大学・職業訓練校との連携にも注力しており、現地人材の高度育成を視野に入れた長期的な協業モデルを構築中です。これは、技能だけでなく、設計や開発といった上流工程を将来的に現地で担える体制づくりにもつながっています。
このように、Panasonicの取り組みは、単なる「低コスト生産」ではなく、ベトナムを成長戦略の中核に据えた高度化の象徴ともいえます。日本企業がベトナムを活用する際、「価格」だけでなく、「質」や「技術移転」「人材育成」まで視野に入れた長期的視点が重要であることを示しています。
3.2. NECのオフショア開発と地域連携
NECは、ベトナムを重要なオフショア開発拠点として位置付け、長年にわたりソフトウェア開発やシステムインテグレーション事業を展開しています。ハノイとホーチミン市に開設された開発センターでは、日本向けのプロジェクトを中心に、セキュリティ、通信、業務DXなど幅広い分野に対応した開発体制が整備されています。
NECベトナムの 製造業向けICTソリューション|出典:NEC
また、NECはベトナム国内の大学・技術系教育機関と連携し、現地人材の育成にも注力しています。プロジェクトに即したトレーニング制度や、日本語によるコミュニケーション教育などを通じて、単なるリソースの活用にとどまらない「共創型」の開発環境を構築しています。
さらに、NECはASEAN全体での開発体制の強化を進めており、ベトナムを中心に東南アジア全体をカバーする分散型オフショアネットワークを形成中です。この動きは、特に日本国内でのDX推進やシステム開発需要の高まりを背景に、コストと品質の両立を実現する戦略の一環といえるでしょう。
つまり、NECの取り組みは、コスト重視のオフショア開発ではなく、人材育成や地域連携を通じた「共に成長するモデル」を示しています。単なる委託先ではなく、現地チームとの信頼関係と継続的なスキルアップこそが、海外開発の成功を支える重要な鍵であることが分かります。
3.3. 中堅メーカーINAXの市場先取り戦略とブランド構築
INAX(現・LIXILグループ傘下)は、1996年という早い段階からベトナム市場への進出を果たし、現地に複数の生産拠点を構えてきました。もともとは中堅規模の住宅設備機器メーカーとしてスタートした同社は、ベトナムにおいてもトイレ、洗面台、タイルなどの製造・販売を通じて、着実にブランド認知を高めてきました。
INAXは、ベトナムで広く親しまれている住宅設備ブランドです|出典:INAX
特筆すべきは、単なる低コスト生産の目的ではなく、「現地市場そのものを育てる」という長期視点を持って進出した点です。ベトナム国内にショールームを展開し、プロモーション活動やデザイン・機能性の訴求を強化することで、「INAX=高品質な日本ブランド」というポジションを築き上げました。
現在では、INAX製品はベトナムの都市部を中心に広く流通しており、現地消費者の中でのブランド認知度は非常に高いものとなっています。JETROのレポートでも、INAXは「ベトナムにおける日系中堅企業の成功例」として紹介されています。
まとめると、INAXの成功は、製品力だけでなく、現地ニーズに寄り添いながら市場を育てるという「攻めの姿勢」にあります。中堅企業であっても、タイミングと戦略次第でブランドを定着させ、市場で確固たる地位を築くことができます。そんな現実的かつ希望の持てるモデルケースといえるでしょう。
3.4. ベトナム進出成功の共通点とは
Panasonic、NEC、INAX──企業の業種や規模は異なれど、3社に共通して見られるのは、「ベトナムを単なるコスト削減の手段ではなく、長期的な戦略拠点と捉えている」という姿勢です。高付加価値の製造体制、現地人材との協業、ブランド構築を通じて、それぞれの企業は自社らしい形でベトナムとの関係性を築いています。
一方で、これらの事例は、海外展開を検討する企業にとっての「正解」を示しているわけではありません。むしろ重要なのは、自社のリソースやビジョンに即したアプローチを見つけ出すことではないでしょうか。
ベトナム市場は今なお成長過程にあり、多くのチャンスが残されています。読者の皆さまがこれらの事例から何か一つでもヒントを得て、自社にとっての「ベストなベトナム戦略」を描くきっかけとなれば幸いです。
4. 日本企業が注目すべきベトナム投資の4大トレンド
ここまで、実際にベトナムに進出している日本企業の戦略や、現地市場の特徴について見てきました。ただし、「今どうなっているか」だけでは、これからの投資判断を下すには十分とは言えません。変化のスピードが加速するいま、企業にとって本当に重要なのは、「これから何が起こるか」を見極めることではないでしょうか。
このパートでは、そんな未来を考えるヒントとして、日本企業が押さえておきたい4つの注目トレンドをご紹介します。
4.1. 先端技術・製造分野の進化と新規投資の加速
近年、ベトナムではスマートファクトリーやAIカメラの導入、遠隔監視・制御システムなど、先端技術を取り入れる日系製造業のプロジェクトが増えています。単なる人件費削減ではなく、「高度な製造品質」と「迅速な市場投入」を同時に実現する拠点として、再評価が進んでいるのです。
また、半導体パッケージングや電子部品の組み立て分野では、Hana MicronやAmkorなどによる投資が加速しています。ベトナムは「次なるテック製造拠点」として存在感を高めており、日本企業にも中長期的な技術戦略の再構築が求められつつあります。
4.2. グリーン成長・ESG・再生可能エネルギーへの転換
ベトナム政府は、環境負荷の低減と持続可能な経済成長の両立を目指し、グリーン成長戦略(GGS)や第8次国家電力開発計画(PDP8)を通じて、再生可能エネルギーの導入を本格化させています。特に太陽光や風力発電への投資誘導が強化され、2050年までのカーボンニュートラル達成を国家目標として掲げています。
また、日本を含む各国の大手企業が、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応の一環として、サプライチェーン全体の脱炭素化を進める中、ベトナム拠点にも同様の要求が広がっています。今後は、単なる製造コストの安さではなく、環境対応力や持続可能性も、ベトナム投資の大きな判断材料となっていくでしょう。
4.3. 外資誘致を支える政策強化と制度インセンティブ
ベトナム政府は、ハイテク産業や再生可能エネルギー分野への外資誘致を強化しており、各種の税制優遇や投資支援制度を拡充しています。たとえば、ハイテク分野に投資する企業に対しては、法人税の4年間免除や9年間の50%軽減などの優遇措置が適用され、長期的な事業展開を後押ししています。
また、2024年以降は、外国銀行によるベトナム金融機関への出資上限が49%に引き上げられるなど、規制緩和の動きも進んでいます。技術力や資本を持つ外資の呼び込みを通じて、国内産業の高度化を促す狙いがあるとされており、今後も制度面での改善が続くと見られています。
4.4. 都市化と中間層の拡大がもたらすサービス分野の成長
ベトナムでは、急速な都市化と中間層の拡大に伴い、教育、医療、小売、外食、デジタルサービスなどの分野で需要が急増しています。特にハノイやホーチミンといった大都市圏では、消費行動が多様化・高付加価値化しており、生活水準の向上を前提としたビジネスモデルの展開が求められるようになっています。
この流れを受けて、日本企業の間でもこうした動きが広がりつつあります。小売やコンビニ、EC、教育関連サービスを中心に、現地市場に根ざしたビジネス展開が見られます。単なる輸出拠点ではなく、「ベトナム国内でのブランド確立・サービス提供」そのものが、今後の競争力につながるカギと言えるでしょう。
4.5. トレンドをどう戦略に落とし込むか
つまり、本章で挙げた4つのトレンドは、いずれもベトナム市場の構造的な変化を示しています。これらの動きは、一時的なブームではなく、中長期的な産業シフトや消費行動の変化と連動しています。したがって、「今どの業界が伸びているか」だけでなく、数年後を見据えた投資の軸をどこに置くかが、今後ますます重要になるでしょう。
すでに多くの日本企業が動き始めていますが、遅すぎるということはありません。むしろ、これから参入を検討する企業こそ、トレンドの背景と本質を読み解き、戦略に落とし込む力が問われているのではないでしょうか。
終わりに
急速に変化するASEAN市場の中でも、ベトナムは今、さまざまな角度から注目を集めています。しかし、どれほど有望に見える市場であっても、「自社にとっての意味」を見出せなければ、実りある投資にはつながりません。 本記事が、ベトナム市場の最新動向を整理し、これからの戦略を描くヒントになれば幸いです。
では、ベトナムでのDXやIT活用に関心がある方は、ぜひ私たちYOPAZにご相談ください。現地に根ざしたITパートナーとして、貴社の課題に寄り添いながら、最適な選択肢をご提案いたします。ベトナム投資を検討されている日本企業の皆さまにとって、次の一歩を踏み出す一助となれれば光栄です。